最高裁判所第三小法廷 昭和45年(あ)1960号 決定 1971年10月26日
主文
本件上告を棄却する。
理由
被告人本人の上告趣意第一の一ないし第一の五、第四の一ないし第四の三は、違憲をいう点もあるが、その余の点を含め、実質はすべて事実誤認、単なる法令違反の主張である。同第二のうち、判例違反をいう点は、判例を具体的に示しておらず、その余の点は、事実誤認、単なる法令違反の主張である。同第三および第三の二のうち、判例違反をいう点は、引用の判例は事案を異にして本件に適切でなく、その余の点は、事実誤認、単なる法令違反の主張である。同第五および第五の二のうち、違憲をいう点は、所論ポリグラフ検査結果は一審事実認定の基礎とされていないから、この点の所論は前提を欠き、その余の点は、実質は単なる法令違反の主張に尽きる。
弁護人鍜冶良作、同池隆憲の上告趣意第一、第二は、違憲あるいは判例違反をいうが、その実質はすべて事実誤認、単なる法令違反の主張である。同第三、第四は、いずれも事実誤認、単なる法令違反の主張である。
以上のとおりであって、論旨は、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
なお、熊谷市においては、議会の各常任委員会の委員をもってそれぞれの常任委員協議会を組織し、同協議会において、執行機関の側から、その所管事項のうち当該常任委員会の分掌事項に関係するものについて報告を行ない、意見を聴取したりするとともに、また、委員の側でも、必要な調査を行ない、執行機関に対し意見を伝達したりすることが慣例となっていたと認められることは、原判示のとおりである。そうすると、市議会議員であって、市消防本部の所管事項等を分掌する建設常任委員会委員でもある被告人が、同常任委員協議会の一員として、消防本部長の求めに応じて、熊谷市の購入すべき消防用機械器具の機種と発注先の選定に関する意見を伝達すべく、それに必要な調査等の事務に従事することは、被告人の議員ならびに建設常任委員会委員としての職務に由来し、慣例上右職務と密接な関係を有する行為であり、しかも、右慣例またはこれに従った被告人の行為が、ただちに執行機関の独立に対する不当介入として違法であるとはいえないものであるとして、被告の本件所為につき収賄罪の成立を認めた第一審判決を支持した原判決は、相当というべきである。
また、記録を調べても、刑訴法四一一条を適用すべきものとは認められない。
よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄 裁判官 関根小郷 裁判官 天野武一)